工務店の後継者問題、4つの選択肢 親族・社員・第三者(M&A)・廃業を、許可と職人の引き継ぎから比べる

「息子は継がない」「社員に任せたいが、株を買うお金がない」。後継者の悩みは、決めるのを先送りするほど選択肢が減ります。建設業は、経営経験のある役員と営業所技術者がいなくなると、会社が続いていても工事を受けられなくなります。4つの選択肢と、建設会社ならではの論点をまとめます。
4つの選択肢
| 選択肢 | 向いている会社 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 親族への承継 | 子や親族に継ぐ意思と現場の経験がある | 株の贈与・相続の税金(事業承継税制の特例)、ほかの相続人との調整 |
| 社員への承継(MBO・EBO) | 現場と取引先を任せられる幹部がいる | 株を買い取る資金(金融機関の融資・分割払い)、借入の経営者保証の引き継ぎ |
| 第三者への売却(M&A) | 親族・社員に候補がいない。職人と取引先を残したい | 仲介・FAの手数料(最低報酬)、相手の選び方、売却の意向が地元に漏れないこと |
| 廃業 | 引き継ぐ事業がない。借入より資産が多い | 職人の雇用、施主へのアフターサービス、清算の費用と期間 |
どれか1つに決める前に、4つを同じ表で比べると、家族や幹部とも話しやすくなります。
建設会社ならではの論点:許可を誰が支えるか
建設業許可には、経営経験のある役員と、営業所ごとの営業所技術者が欠かせません。小さな工務店では、社長が両方を兼ねていることがよくあります。
| 引き継ぎ方 | 許可の扱い |
|---|---|
| 株式譲渡(M&A・親族・社員) | 許可は会社に残ります。ただし社長が退任して経営業務の管理・営業所技術者の要件を満たさなくなると、2週間以内の届出が必要で、後任がいなければ許可は取り消されます。退任の前に後任を置きます |
| 事業譲渡・合併・会社分割 | 事前に許可行政庁の認可を受ければ、許可を引き継げます(2020年10月から)。大臣許可の審査はおおむね90日。準備は数か月前から始めます |
| 個人事業の相続 | 亡くなってから30日以内に、相続人が認可を申請すれば引き継げます |
経審を受けて公共工事を請け負っている会社は、引き継ぎの時期と決算・経審の時期の重なりも確かめます。許可の要件の詳しい中身は、コラム「建設業許可と経審の基礎」にまとめています。
会社の価値(株価)の目安の出し方
中小企業の売り買いでは、時価で見直した純資産に、数年分の利益を加えて価格の目安にすることがよくあります(中小企業庁「中小M&Aガイドライン」でも紹介されている考え方)。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 計算の目安 | 時価純資産+営業利益の2〜4年分 |
| 例 | 時価純資産5,000万円・営業利益1,000万円なら、7,000万〜9,000万円前後 |
| 上がる条件 | 特定建設業の許可、経審の点数と公共工事の実績、若手職人・有資格者の在籍、元請比率、安定した取引先、社長がいなくても回る管理体制 |
| 下がる条件 | 社長個人への依存、簿外債務、古い設備 |
※簡易計算の目安です。実際の価格は交渉で決まり、正式な評価は仲介・FA・税理士が行います。
職人と取引先を守る
- 株式譲渡なら、職人・社員の雇用契約はそのまま続きます。給与・退職金などの処遇を保つことを、最終契約の条件に入れるよう交渉するのが一般的です。
- 元請・取引先へ伝える時期は、売却の方針が固まってから、相手と相談して決めます。早すぎると取引が止まることがあります。
- 施主へのアフターサービスと保証を、誰が引き継ぐかを決めておきます。
税金と経営者保証
- 事業承継税制(特例措置):親族や社員に株を贈与・相続するとき、一定の要件で贈与税・相続税の納税が猶予されます。使うには、2027年9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に出し、2027年12月31日までに贈与・相続することが必要です。税理士などの認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて作ります。
- 経営者保証:会社の借入に社長が個人保証をしている場合、後継者が引き受けられるかが承継の壁になります。2019年12月に公表された「経営者保証に関するガイドライン」の特則では、前の経営者と後継者の両方から保証を取る「二重徴求」は原則として行わないとされています。早めに金融機関と相談します。
相談先の選び方
| 相談先 | 特徴 |
|---|---|
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 国が全国47都道府県(48か所)に置く公的な窓口。親族・社員への承継も、M&Aも無料で相談できる |
| M&A仲介 | 売り手と買い手の両方と契約し、双方から手数料を受け取る。中立の立場で間に入る |
| FA(ファイナンシャル・アドバイザー) | 売り手か買い手の一方とだけ契約し、その側の利益のために助言する |
| 税理士・金融機関 | 株価の評価、税金、資金の手当て |
仲介・FAを選ぶときは、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録しているか(登録機関はデータベースで検索できます)と、契約前に次の点を書面で説明してもらえるかを確かめます。
- 仲介かFAか(仲介なら、利益が相反するおそれのある点)
- 手数料(着手金・中間金・成功報酬・最低報酬)と、相手方の手数料
- 契約が終わったあとも手数料がかかる「テール条項」の期間(2〜3年以内が目安)と対象
- ほかの会社に相談(セカンド・オピニオン)してよいか
売上1〜3億円規模の工務店は、大手の仲介では最低報酬に合わず断られることがあります。建設けいえいの工務店・建設会社のM&A・事業承継では、小規模案件を扱う仲介・FAを1社ご紹介します。紹介の前に、弊社が仲介・FAから受け取る紹介料をお伝えします。
廃業と比べる
廃業にも費用がかかります。解散・清算の登記と税務で50〜150万円程度に加え、在庫・重機・事務所の処分、職人の退職金が必要です。売却できる見込みがあるなら、廃業した場合に手元に残る額と、売却した場合の額を並べて比べます。
決める前に確かめたいこと
- 社長が、経営業務の管理を行う役員や営業所技術者を兼ねていないか。兼ねているなら後任の候補はいるか
- 直近3期の決算書と、会社名義・社長個人名義の資産の区別
- 借入と経営者保証の一覧
- 職人・社員の年齢と資格、退職金の積み立て
- 元請・取引先の上位3社で売上の何割を占めているか
- 何年後に引退したいか
まずは会社の価値の目安を知ることから始められます。社名を出さずに相談すると、目安と、価値を上げる論点、廃業した場合との比較をお送りします。
